hero-Children2011-10-07

あの頃のD樹


D樹って書くの何年ぶりだろうか。
現場では雨が続き、そこらへん泥濘だらけ。
長靴をはいて歩いているが、所々ぐっぽんぐっぽん埋まる。
地盤が悪いのだ。
泥にぬかるんで長靴が脱げそうになりながら歩いていたら、ふっと
昔の記憶が蘇った。




西4丁目の市営団地が出来たのは昭和55年。その隣の西3丁目に団地が
建ったのは、昭和60年頃。その前は広い空地であった。
そこも当時は子供の遊び場で、雨が降ると水溜りが出来上がり僕らは
柵を登りその空地へと侵入し、長靴をはきぐるぐる歩き回る。
不意に埋まったり、『ここはやばいか!?いや。入ってみるか』てな具合に
泥濘に足を踏み入れる。ズブズブ埋まる感覚や、抜けれなくなる危険に
快感を覚え遊びまくった。
ある日、雨降りの翌日。皆で遊んでいた。その中にD樹がいた。
大体が、皆ある程度周囲に拡散し、誰かが『やばい!!抜けれねぇ!!』
と騒ぐと、周りの皆が助けに行くわけだが、その自分すら抜けれない事も
あり、そんな状況を楽しんでいた。
ビビリのD樹は皆から少し離れた柵付近の場所で、ビビリながら泥濘にちょいと
足を入れてビビッていた。
誰かが(たぶん俺)
『D樹!もっとこっち来いや!!』と叫んだ。
これには
【ビビッてないでこっちこい】
【遠いと助けれないぞ】
の両方の意味があったはず。
D樹は、顔を一層ビビリに変え、こちらに向かった。
そして、もちろん、深めの泥濘に足を取られた。
【わぁ〜】と聞こえた瞬間に見たD樹は片足を泥濘に膝まで漬かっていた。
ここで大事なのが、泥濘に長靴まで漬かったら、長靴を履いたまま泥濘から
出る事は非常に困難である事だ。
当然。非力でもあるD樹は、完全に片足を動かす事は出来なくなった。
そうなればその場から動く事ができるはずもない。
両手で足を引っこ抜く事も出来なくはないが、D樹には無理だ。
僕らは皆、D樹に向かったが【救出も楽しいのだ】何せ、ビビリD樹なので
D樹までが遠い。こっちも泥濘を進むわけだし簡単には着かない。
混乱したD樹は足を抜こうともがき、当たり前だがもう片足も沈んでいく。
【助けて〜】D樹は半べそを越えて泣いていた。
僕らが着いた頃。D樹は後ろに倒れ尻餅を着いた状況だった。
両足は完全に沈没。
3人でD樹の手を取り引っ張るがここまでぬかるむと簡単には引き出せない。
もがく大樹。引く3人。
でも脱出できない。
通りすがりのおっちゃんに助けを求める。おっちゃんは
【ちっ。こんな汚い所で・・】と怒りを露わにしていた。
まず助ける前に
【こんなところで遊ぶからこうなるんだ!】と僕らを一喝した。
大人の手を借り僕らも引っ張りようやく大樹は抜け出した。
脱出したものの両方の長靴は泥濘に埋もれ取り出せず。
膝までずり落ちたジャージの下から泥で茶色くなったブリーフの
所々に残る白色がやけに鮮やかに見えた。