記憶の旅路[1]


一つだけ色が違うカラーボックスが何時もよりやけに癇に触るのは、2時間も帰宅
が遅れている彼女に対する苛立ちからか、もしくはここ数日続いている頭痛が原因か。
テーブルの下の雑誌に埋もれた薬袋を取り出し、酒で錠剤を流し込む。
効き目があるというより、飲んだからという安心感が欲しいだけだ。
安酒でも量を飲めば効き目はもちろんあって、当たり前のように酔ってきていた。
ふらつく頭で足を動かし大き目の窓のある部屋に向かう。
カーテンを開け片田舎の夜景を見ながら、曇り硝子で滲む街頭や遠い車の光を目で追う。
その端に映った男は、紛れもなく自分である自信がなかった。
見つめ合う男はその目の奥で語りかけてきた
『やぁ元気なさそうだなぁ。まるで50過ぎの・・・そうだ。お前の父さんのようだよ』
一瞬記憶が過ろうとするのを、理性で抑えつけ床に置いてあった安酒を拾い、小さくなった氷とも飲みほしソファーに仰向けに倒れた。
今度は、違う記憶を僕は無理矢理引き出そうとした。
小さい頃、遠足の日をまだかまだかと指折り数えたあの頃を。
記憶はすぐに頭の奥底に消えていき、酔って回る目を開け今の自分を見つめてみる。
明日や明後日や、そしてその先を待ち焦がれるってことから随分遠のいてしまった。
そして逆に明日も来るであろう繰り返される平凡に、何を用いて抗えば良いか解らなくなって
しまった。
平凡なのが一番の幸せなんだって度々耳にするが、きっとそれはただの妥協であり、
そう思う事は、今をなんとか満足のいくものにする為の一つの知恵であろうと僕は
解釈してきた。
何を求めてきたんだろう。いったい今まで。
目を瞑れば世界は先ほどより更に回っていた。それでも目を開ける気にはならない。
ただただ。寝るしかないと思えた。
今のこの気持ちを消し去るには、この現実から逃避するには眠る事しかないと思えた。
クローゼットの中にある、大昔にもらった処方箋を取り出した。
数えてみたら30錠近くあるそれを、もう一度酒で一気に飲みほした。
軽く咽かえりながら、目を瞑り3度深呼吸する。
思ったより長い時間が経ったあと。僕は旅に出た。
想像以上に深く暗く居心地の良い場所へと向かった。






詩を考えてたら出てきた情景をただただ書いてみたのでした。
続きがありそうだぞこの駄作