リボンをかけて

吹雪の中ダラダラ進む車の中で不二屋の看板が
何かを主張するかのように異色を放ってるが
肝心の箱はと云うと薄暗くいつもは外で舌を出す
女の子は薄暗い其処でやっぱり舌を出していた。
『やっちゃったね』
とでも言ってるように。


あの日僕は休みに仕事をした帰り田舎の2車線の
道路をラジオを聞きながら走っていた。
コンビニに入ったら会計の時にくれた
チロルチョコ』が手の中で溶け口に運ぶ最中
更に溶けた。少しイラっとして後部座席の
ティッシュを手を伸ばして取ろうとした時、ふっと
ハンドルに作用し車が左に向いた。
その田舎の道路の脇は田んぼで危うく落ちかけそうに
なった。と、一台の車が僕の車の脇を通過した。
『I江さんだっ!』
その車は謂わば会社の営業車で独特のカラーリングで
パッと見すぐわかるし、車種で誰かもわかる。
そして、I江さんは助手席に人を、女性を
乗せていた。
特にI江さんとは仲良くないが休日に営業車に乗り、更に女を乗せて・・
とティッシュで口を拭きながら追跡を開始した。
彼からは女性の噂は聞かないし、何より向かう方向は一緒であったから。
『バレンタインデートね』僕は少しニヤけた

僕は自家用車だったから向こうは気付くわけも
ないはずだが、尾行感が強かったのか
不思議に速度が上がり距離がひらいていく。
いろんな意味で僕は興奮した。
いや
『どんな女を連れてるんだ』
興味はそれだけだったかも。
市街地に入る手前。
片側2車線の広い道路に差し掛かった瞬間
僕はアクセルを一気に踏み彼の車に並び
抜き去った。
僕の胸は踊り前を見るより先にバックミラーを見た

バックミラーに写ったのは運転するI江さんと
隣に座るニット帽を被ったおばぁちゃんだった。

僕はなんとも云えない罪悪感に包まれた。
収まらない気持ちのまま、車を市街に向けた。
僕はアーケード街にある不二屋に行き
『ペコちゃんのほっぺ』
を6個買った。
自動ドアを出る時
『やっちゃったね』
とペコちゃんは舌を出して僕に笑った。
と、同時にニット帽のおばあちゃんとスレ違った。
続いてI江さんが来た
『あぁ!ヒロ吉くん!うち(店)で買物してくれたんだ!』
『あぁちょうど通ったからね』
『また頼むよ〜』
『うん』
歩きながらぼくは呟いた
『やっちゃったね』
続けて国生のバレンタインデーキッスが頭に流れた